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十蘭草堂

解読!アルキメデス写本―羊皮紙から甦った天才数学者

リヴィエル・ネッツ、ウィリアム・ノエル著、吉田晋治監訳、光文社。
今から約一年前に出版された本で、アルキメデスC写本の研究についてまとめられたものです。一九九八年にオークションに突如姿を現したこの本、巻頭のカラー写真を見れば分かる通り、投げ捨てたくなるくらいに薄汚い本です。中身はキリスト教の祈祷書なのですが、その下には人類が誇る素晴らしい遺産が眠っていました。アルキメデスの「浮体について」や「ストマキオン」が書かれていたのです。
しかし、本の状態は最悪と言えるものでした。祈祷書はアルキメデスの言葉が書かれた羊皮紙の表面を削り取って書かれています。さらに、水濡れにあったのか、カビだらけ。これだけならまだマシかもしれません。とどめの一撃としてあげられるのは、二〇世紀になってから、祈祷書のうえに「本を写し取っている修道士のオッサン」を描いたやつがいると云うことでしょう。写真を見ると、上からベタッとした絵の具で下手くそな絵が描かれています。こんな状態から本文を読み取ろうというのですから、研究者達の根性もたいしたものです。
本文はプロジェクトのリーダーであるリヴィエルと、アルキメデス研究者のウィリアムが交互に各章を担当し、バトンしていくという形式になっています。最新の技術というのは素晴らしいもので、どんどん新事実が出てきます。アルキメデスは組み合わせ論みたいなことも考えていたんですね。今なお研究は継続しているみたいなので、プロジェクトが成功することを願ってやみません。
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  1. 2009/04/05(日) 17:27:04|
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磁力と重力の発見

山本義隆著、みすず書房。最近メインで読んでいた「磁力と重力の発見」が完結しました。全部で三巻、約九五〇ページにもなる大作です。一巻では古代から中世にかけてを取り扱い、二巻はルネサンス期、三巻はギルバートやケプラー、ニュートンなどを取り扱っています。
この著作の眼目は何と言っても二巻でしょう。ルネサンス期の魔術思想を取り扱っています。通常科学史では魔術は黙殺されてしまっているみたいなのですが、古代の文献に盲従する権力側の人間よりも、在野で胡散臭いと思われながらも、肉眼ではっきりと確かめられる遠隔作用である磁力について議論していったことが磁力、重力研究の発展につながったというスタンスをとっています。ギルバートやニュートンも魔術の系譜にあると見ることができるんですね。読みやすい好著だと思います。
ただ、何分扱っている分野が特殊なことは事実ですので、私はこれの後に書かれた「十六世紀文化革命」(夏に取り扱いました)を先に読むことを勧めます。そのことがこの本をより取っつきやすく、面白くすることになるでしょうから。

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  1. 2009/02/17(火) 18:51:32|
  2. 科学
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十六世紀文化革命

夏休みに読み終わった本は大体リストアップしたのですが、特に印象に残ったこの本は別扱いにします。
みすず書房から出版されている山本義隆の「十六世紀文化革命」です。一般に科学が飛躍的な発展を遂げ、科学革命と称されるのは17世紀ですが、この本ではそれよりも少し前の16世紀を扱います。分野は医療や冶金術、軍事科学、数学、天文学、測地術など多岐にわたります。その「文化革命」に大きな役割を果たしたのは大学教育を受けていない職人達。印刷術の発展が俗語による学術書の出版をもたらし、スコラ学によって硬直した大学とは全く別の次元で事が運んでいったのです。これらの職人達の経験の積み重ねが次第に手仕事を軽蔑しなくなった大学のエリートに吸収され、国家やエリートによる集団研究、学術協会を生み出し、科学革命が起こっていったと論じています。
これまでの科学史の本はエリートの方に視点を置いた物がほとんどなため、このような書物は大変珍しいと思います。読みやすく面白い好著です。全二巻。

追記 九月二十四日午後、三島由紀夫「沈める滝」読了。これも面白いです。文庫になっているので手軽にどうぞ。

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  1. 2008/09/25(木) 22:17:51|
  2. 科学
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プロフィール

挫折亭十蘭

Author:挫折亭十蘭
文学部の書生、世を捨てて、仮想世界に庵を建てる。
芸術を愛で、読書したり、廃墟に行ってみたり。

なお、廃墟への交通手段、侵入方法等の質問に関しては、お答えできかねます。

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