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十蘭草堂

増補 本居宣長

村岡典嗣著、前田勉校訂、平凡社東洋文庫、全二巻。
昔は岩波書店から出版されていたもので、神保町でも六千円前後で出回っているようです。しかし、東洋文庫で出版された今となっては新品で買ってもそんなに値段は変わりません。
戦前、というか明治に書かれたものですが、本居宣長を読もうと思ったら、基本中の基本の文献となります。無論、本居宣長に関しては研究も進み、新書などの入門書も巷にあふれています。そういった入門書を書いた研究者達もこの本には目を通していると思われます。宣長に関する必要な情報が要領よくまとめられています。
また、宣長本人の性格分析もなかなか秀逸で、文献学的な側面と宗教、古道的な側面、この矛盾する二つの要素が彼の中でいかに結びつくか?こういった問題は新書などではあまり論じられていませんよね。文体は古いですが、結構勉強になる読書をすることがで来ました。おすすめ。

…基本文献と書きましたが、図書館で購入されてから借りたのが、私で三人目。この大学でまともに宣長を研究しているやつはいないんですか…。少し不安になってきました。あ、基本文献で何度も読み返すから、この程度なら買っていると?そういうことにしておきましょう。
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  1. 2009/12/17(木) 20:41:19|
  2. 哲学、倫理学
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三つほど

哲学入門、三木清、岩波新書―数ある新書の中でも最古参兵クラス。概してこの頃の新書は要求レベルが高いです。近頃の入門書によく見られるような、様々な思想家を浅く紹介するといったスタイルではなく、認識論、倫理学のある程度焦点を絞り、深く突っ込んだ論を展開しています。歴史性なども話に絡んでくるのが三木らしいですね。まあ、入門書ではない気もします。
悲劇の誕生、ニーチェ、西尾幹二訳、中公文庫―今現在は中公クラシックスの同じ訳が収録されているかと思います。ニーチェの実質的なデビュー作ですね。彼はこの著作で実質上、西洋古典学者としての命脈を絶たれることになります。当時は実証的な研究が普通であり、ニーチェの文章は論理性を欠いたものとして受け取られたからみたいです。読んでみると確かに、感想文といったイメージがわいてきます。ただ、これは悲劇に中にある精神性、デュオニソス的なもの、アポロ的なものを扱い、前者の死と再生をテーマにした観念性の強いものなので、実証的に書けと言う方が無理な気もします。この著作がここまで読み継がれてきているということは、彼の直観がかなり正鵠を射ている証とも言えるでしょう。日本でも神道に荒御魂、和御魂という区別があるほどですから、両者の栄枯盛衰という観点から、日本文化を基礎付けるのは面白いかもしれませんね。
ヘーラクレース、エウリーピデース、内田次信訳、ギリシア悲劇全集第六巻所収、岩波書店―上に書いた悲劇の誕生では、エウリーピデースのことがボロクソに書かれています。ニーチェが言うほどではないにしろ、確かにこの作品の出来は悪いと思います。ヘーラクレースが帰ってくるまでの愁嘆場と彼が発狂して子供達を皆殺しにする場面。両者の接合がどうも不自然で、木に竹を接いだような印象を受けます。最後もテーセウスによる妙な救済が入るし。なお、ニーチェの著作を攻撃した古典学者、ヴィラモーヴィッツ・メルレンドルフがこの作品に関して大部の著作を残しているようです。訳も出てないみたいですし、面倒なので読みませんが。

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  1. 2009/10/23(金) 12:18:29|
  2. 哲学、倫理学
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カント入門

石川文康、ちくま新書。一応入門書と銘打ってありますが、私はこの本を最初に読むのはどうかと思います。カントだけではなく、どの思想家にも言えることですが、入門書より先に、本人の著作に当たる方がよいでしょう。そういうわけで、夏休みの間、岩波から出た全集を用い、カント本人が「純粋理性批判」の導入として書いた「プロレゴーメナ」を読んでいたわけです。挫折することなく、何とか貫徹。カントを読むなら、まず、これ、という感じです。ただ、飜訳は岩波文庫は避けるのが吉ですし、中公クラシックスも、「超越論的」という言葉が「先験的」と訳されているのを見ると、訳が結構古そうです。全集版の久呉訳が一番まともそうなんですが、バラで買えないのが何とも。
とにもかくにも、本人の文章を読み通すことで、分かること、分からないこと色々得ることがあるはずです。私も、カントの用語法に少し慣れることができました。あと、やはり、「純粋理性批判」を読まないと話が始まらないこともよく分かりました。こういう事が分かった上で、カントが書いている情報を再整理するにはこの新書は最適だと思います。世の中には入門書だけを漁っている方もいるみたいですが、これだけで分かったように思われては困ります。私自身にとっても、カント哲学は謎に満ちていますし、それを読み解くのは楽しいです。あんな難解な文章を読むのが楽しいとかどれだけドMだよって話ですが、考えて、考えて、分かるとやっぱり哲学は楽しいですよ。

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  1. 2009/10/02(金) 17:28:03|
  2. 哲学、倫理学
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ソクラテス以前以後

F.M.コーンフォード著、山田道夫訳、岩波文庫。
夏休みが残り少なくなってきましたが、とりあえず読了。地元の図書館で適当に借り出してきたものの一つですが、どうやら当たりを引いたようです。
全体は大きく四つに分けられており、ソクラテス以前、ソクラテス、プラトン、アリストテレスという構成になっています。この本のタイトルからも分かるように、ソクラテスで何が大きく転換したのかということをあぶり出しています。究極的なものの、始原から終極へのシフト、外から内。このような一大転換がソクラテス一代で行われます。その流れを引き継いだのがプラトン。その後に登場したアリストテレスが、わりと否定的に書かれている気がしますが、これはコーンフォードがプラトンを主に研究していたからと思われます。プラトン学者はアリストテレスを嫌う傾向が多かれ少なかれ見受けられます。哲学史的な一つの流れを、頭の中にねじ込むのには最適な著作だと思います。しかし、それぞれの学説について詳しく書かれているわけではないので、プラトン、アリストテレスに関しては別途本を読む必要がありそうですよ。

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  1. 2009/09/20(日) 22:48:13|
  2. 哲学、倫理学
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パイドン

プラトン、池田美恵訳、新潮文庫。同時に田中美知太郎訳で、「ソクラテスの弁明」、「クリトン」も納められています。後者は岩波文庫の訳が非常に読み辛いので、この一冊で済ませてしまうのが得策かと思います。
他の本に手を出したりしたため、グダグダになっていましたが、読了しました。前半はイマイチ気乗りしなかったのですが、後半のイデア原因論あたりはさすがに面白いですね。プラトンは哲学的にも深いんですが、読みやすいという不思議な哲学者です。カントを投げ出したいのも山々ですが、読み始めると引っ込みがつきませぬ。
さて、このイデア原因論に関しては様々な解釈があるようです。詳しくは書きませんが、私は藤沢令夫先生の解釈が一番素直で、わかりやすく、普通だという立場です。論文で藤沢先生が、科学、分析哲学の立場からの解釈をボロクソに書いていました。読んでみると、確かに、どうねじ曲がると、そういう読み方になるのか首をかしげたくなります。同時に藤沢令夫「プラトンの哲学」(岩波新書)あたりに目を通すと、一層良いかもしれません。

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  1. 2009/09/08(火) 22:31:13|
  2. 哲学、倫理学
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プロフィール

挫折亭十蘭

Author:挫折亭十蘭
文学部の書生、世を捨てて、仮想世界に庵を建てる。
芸術を愛で、読書したり、廃墟に行ってみたり。

なお、廃墟への交通手段、侵入方法等の質問に関しては、お答えできかねます。

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