試験が終了したわけではないですが、峠は越しました。いや、峠を越しただと回復期にあるみたいですね、瀕死の病人が来たるべき結末を迎えた、そんな感じです。
本題に入りましょう。三島由紀夫「絹と明察」の書評であります。なんか三島を読むのがえらく久しぶりな気がします。三島由紀夫全集第一七巻所収、新潮文庫で読むことができるはずです。この小説はかの近江絹糸労働争議事件をモデルにしたものです。この労働争議に関してはネット上に情報がいくらでも転がっていますから詳細は割愛しますが、ひどい労働状況だったのは確かみたいですね。戦前でこの状況ならばまさにプロレタリア文学格好の題材だったでしょうが、戦後ですからそういうムーブメントはなかったみたいです。
プロレタリア文学で思い出しました、二〇〇八年下半期くらいから「蟹工船」が注目されてるみたいですね。ついでに言っておきますと「蟹工船」はくだらない話ですよ。
ひどい労働状況だ→叛乱してみた→資本家にボコボコにされた→こんなのは間違っとる!!で要約完了ですわ。今は上から下まで辛いんですから、当時とは状況も違いますしね。
小林多喜二は特高に虐殺されたがために実力以上に評価されているフシがあります。「蟹工船」を読むくらいならば、ドストエフスキーでも読んだ方がよほど面白い。
話を戻しましょう。久しぶりに読んで三島の文章の良さを再認識しました。緊密でいい感じです。ただ、ストーリーは三島らしくないですね。いや、つまらないわけではなく題材がそうさせるのでしょうか、三島は日本的などろどろした関係をあまり書く作家ではないのですが、珍しくそういう展開です。表題に「らしくない」と書いたのはそのためです。かっちりまとまった佳作です。
あと、これは蘊蓄になりますが、大江健三郎のノーベル文学賞受賞に尽力したジョン・ネイスンとの関係が壊れたのはこの作品が原因です。彼がこの作品の飜訳を拒否して大江の小説を訳したものだからさあ、大変。三島から見れば大江は下っ端に映ったのでしょうね、以後絶交状態となります。大江も最初は良かったのですが、今となってはあれですからね。しかし外国人にこういった日本のどろどろした家族関係みたいな話は分かりにくいというのは無理のない話かも知れません。日本的企業が持つ陰性の父性を感じたい方におすすめです。
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テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌
- 2009/01/30(金) 19:25:24|
- 文学
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