村井弦斎作、岩波文庫、全二冊。
冬コミ参加の諸君、ご苦労様。
さて、今年の十蘭草堂を華麗に締めるべく選ばれたのは、弦斎翁の食道楽であります。岩波文庫はこういう本を出してくれるから好きです。明治三六年から報知新聞に連載されていたわけですが、単行本の売り上げは紅露趙鴎合わせても及ばぬくらいのものだったようです。品薄なので本屋の丁稚が殴り合い、喧嘩に勝ったものが本を受け取っていったのだそうで。
短い話の中に料理のレシピが連載されており、その数およそ六〇〇に上ります。よく美食小説なんて言いかたをされていますが、全くの見当外れで、むしろ食育の元祖と言える姿勢がこの小説の底辺にはあります。まだ、この時代には栄養観念などが大衆に受け入れられていない時代に、これだけのものを調べ、書くのは並大抵のことではないはずです。弦斎翁は米ぬかが脚気に効果があると云うことを主張した一人でもあります。鴎外は一笑に付してたみたいですが、その後の結果は歴史が証明するところですね。
巻末には日用食品の分析表、西洋食品の価格表(当時価格)、牛の肉の分布図が上巻に、下巻には米料理一〇〇種、パン料理五〇種、病人の食物についての論考、戦地の食物衛生が付録としてついています。下巻は日露戦争くらいの時期に出版されたみたいで、コックのいない水雷艇などでは、水兵がこの本を参考に料理していたという記録が残っています。この本と豆腐百珍あたりを一人暮らしを始める人に持たせれば、野垂れ死ぬことはないんじゃないでしょうか。
さて、二〇〇九年も終わりですね。色々文句も言いたいがこの辺にしておきます。それでは皆様良いお年を。
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テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌
- 2009/12/31(木) 20:12:22|
- 大衆文芸
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